恋愛セミナー28【野分】第二十八帖 <野分 のわき> あらすじ六条院に本格的な秋が訪れました。 秋好む中宮の植えた秋の花も、今が盛りです。 庭の見事さについ里住みが長くなってしまう中宮は管弦の宴を催そうと計画していますが、 そんな折、野分(台風)がやってきました。 春の町の紫の上も野分で痛んでしまった庭の花木を、すこし外から近い場所で眺めています。 源氏が明石の姫のところへ行っているちょうどそのとき、 野分の見舞いにやってきた夕霧は紫の上を垣間見てしまいました。 匂うような美しさに、魂を抜かれたような心地になる夕霧。 父・源氏が明石の姫には親しませても、義母にあたる紫の上にはほんの少しも会わせようとしない理由が、 夕霧にようやくわかったのです。 源氏はまもなく帰ってきて、紫の上を奥に連れて行ってしまいます。 なおも見続ける夕霧は、美しい二人の睦まじさに胸が締めつけられるような思いを味わいました。 今来たばかりのように咳ばらいする夕霧に気づいた源氏は、 もしかしたら紫の上を見られてしまったのではないかと疑い始めます。 源氏の見舞いの言伝を持って三条の大宮のところにも行った夕霧ですが、 雲居の雁のことよりも紫の上の面影が心から離れません。 源氏が花散里のような女性を美しい紫の上と同じ六条院に迎えている心の広さに感服し、 自分はあのような美しい女性を妻として暮らしたいと願います。 六条院に戻ってきても物思いにふけっている夕霧を見て源氏は、やはり紫の上を見てしまったのでは、と思いますが、 ひとまず他の女性たちの見舞いに出かけました。 秋の町の中宮は気持ちが沈んでいる様子でしたので気を引き立てることをいろいろ語りかけます。 冬の町では庭に女童を降ろして草木を起こしていました。 琴をかき鳴らしていた明石の君は源氏の姿を見てきちんといずまいを正します。 すぐに帰ってしまう源氏の冷たさに明石の君はかえって侘しさを感じるのでした。 玉鬘を訪ねた源氏はまたいつものように恋を語りだしました。 源氏と玉鬘がぴったりと寄り添っているのを見舞いにやってきて目の当たりにしてしまう夕霧。 夕霧にも初めて見る玉鬘の艶やかさには、義理の姉あたりであれば恋心を抱きそうに感じられます。 父・源氏も離れていた娘にはそんな感情になるのだろうか、となんとも嫌な気持ちになりました。 源氏が花散里のところへ行くと、女房たちとたくさんの衣を作っているところでした。 布を染めたり縫ったりするのは、花散里は紫の上に劣らないくらい達者です。 摘んできた花で染め出した色調はとても見事で、源氏は若い夕霧に着せるようにすすめました。 すっかり気分が沈んでしまった夕霧は雲居の雁に文を書こうと明石の姫の女房に紙と硯を求めます。 紫の紙に歌をしたためて刈萱(かるかや イネ科)という地味な草に結びつけたため、女房から 「もっと風情ある花に。」と教えられる真面目一方の夕霧。 もう一通書いて、これはどちらに届けられるのでしょうか。 夕霧は今日見た女性と比べてみたくなり、明石の姫をも改めて覗き見ました。 紫の上は樺桜、玉鬘は山吹、そして明石の姫はまだ幼いながら藤の花にたとえ、 この美しい女性たちを日頃から眺めて暮らしたいと思います。 ようやく三条に見舞いにきた内大臣に、大宮は雲居の雁に会いたいと泣きつきます。 「そのうちに。また出来の悪い娘を持ちまして。」と笑って応える内大臣。 まだ夕霧とのことを許してはいない様子に大宮は情けない思いになるのでした。 恋愛セミナー28 1 夕霧と紫の上 義理の母と息子 2 夕霧と玉鬘 姉であっても心ひかれる 3 源氏と夕霧 息子に初めて警戒を 因果は巡るといいましょうか。 源氏が紫の上を夕霧に見せないようにしていたというのがおもしろいと思いませんか。 自分が行なってきたことだけに、夕霧の心の動きを非常に敏感に捉えていますね。 それなのに同じ日に玉鬘と自分の仲さえ見られてしまうのは、やはり野分のしわざなのでしょうか。 娘分の秋好む中宮。 艶やかな玉鬘。 可憐な明石の姫。 やはり源氏の娘たちは、内大臣より格段に上のようですね。 ここに樺桜の紫の上が加わった六条院の女性には、さすがの夕霧も心動かさずにはいられない。 ただし夕霧は、義理の母を思ったり、娘を愛人のように扱う父の感情を想像するだけで恥じています。 姿形は源氏に似ている夕霧ですが、性格は母の葵上似で、真面目。 女性の心をとらえるテクニックも、父には到底及ばないというのが、歌ひとつ贈ることにも現われていますね。 女性の心をとらえる術を知っている源氏と、美しくとも生真面目な夕霧。 あなたはどちらをお好みになるでしょうか? |